巨人のすねをかじる

心理学徒だったものの,読書日記的なものです。

書評:『欠乏の行動経済学 いつも「時間がない」あなたに』

今回読んだ本

  • 書誌名:欠乏の行動経済学 いつも「時間がない」あなたに
  • 著者名:センディル・ムッライナタン & エルダー・シャフィール
  • 発刊年:初版 2015年
  • 媒体種:紙書籍
  • 開始日:不明
  • 読了日:不明

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

800字感想コーナー

認知心理学行動経済学,それぞれの領域で一流の研究者が各々の英知を組み合わせて作り上げたひとつの芸術品。 この本で語られている「欠乏」という概念とそれに対する対処法は,本の帯に書いてある通り,あらゆる文化圏,あらゆる資源に当てはめることのできる優れたものであると思います。

本書では,ある資源が「欠乏」していると意識されるとき,欠乏した状態でもなんとか目標を達成しなければと他のものをシャットアウトする,「トンネリング」と呼ばれる一種の過集中状態になってしまうという現象が述べられています。

ことわざでは昔から「貧すれば鈍する」と言いますが,まさにその通りなわけです。

これまで貧困は,貯蓄や節約をしない,プログラムに参加しないなど,当人の能力の怠慢で能力の問題だと思われがちでした。「鈍しているから貧する」という世界観ですね。 一方で本書は,貧しているときにはその資源の貧困で頭の中がいっぱいになってしまい,脳内資源を一定の割合で奪われてしまっているため認知能力が下がることを主張しており,文字通り「貧すれば,鈍してしまう」という世界観なわけです。

お金だけでなく,時間などあらゆる資源に適用できる話であるというところが,この「欠乏」のメカニズムの優れた点であると思います。 そして,著者らは欠乏をきちんと理解することで人は自分の環境を「耐欠乏性」にできるという示唆を与えてくれています。

例えば貧困の原因はえてして「豊かさ」にあるということ,1回選択してしまえば自動的に欠乏を回避できるような仕組みを構築すること,など,アクションにも移れるという意味で素晴らしい一冊でした。

時間やお金が足りないと頭を悩ませることは少なくありませんでしたが,こうしたメカニズムを理解して生きると違った景色が見えるかもしれませんね。 仕事をしているときの「頭の中のリソース」もきちんと使い道を意識しなければと考えさせられました。